アルツハイマー病の約3分の2は女性
認知症といっても、様々な種類があります。
その中でもアルツハイマー病は全体の60%〜70%をしめ、最も多いタイプです。
アルツハイマー病で注目したいのは性別による有病率の差です。
国内外の研究からアルツハイマー病患者の約3分の2は女性であることが知られています。
その理由として、従来は「女性は男性よりも平均寿命が長いため、認知症リスクも高くなる」と考えられていました。
実際、日本人女性の平均寿命は87.1歳、男性は81.1歳で寿命の差は約6年あります。
エストロゲンの減少と脳の関係
女性は閉経を迎えるとエストロゲンが急激に減少します。
エストロゲンは脳の健康にも重要な役割を果たしています。
具体的には、脳の神経細胞がブドウ糖を取り込むのを助け、主要なエネルギー源(ATP)の産生をサポートする働きがあります。
脳は体の中でも最もエネルギーを消費する臓器で、全体のエネルギー消費の約20%を占めています。
なかでも、記憶や判断などを担う大脳皮質や海馬はブドウ糖に依存しているため、エネルギー供給の障害は認知機能の低下につながりやすいのです。
エストロゲンが急激に減少すると、脳はエネルギー不足に陥りやすくなります。
そして、それを補うために白質を代替エネルギー源として使い始めることが、研究で示されています。
しかも、白質の成分を利用すると、弱くなり、神経伝達の効率が落ちるとされています。
これにより、脳の構造と機能が損なわれ、アルツハイマー病のリスクが高まる可能性があるのです。
実際、40〜65歳の健康な女性は、同年代の男性に比べて脳内のブドウ糖をエネルギーに変える能力が約2割低く、白質の体積が約1割少ないという研究結果が報告されています。
女性にとって、閉経期が脳の変化にとって極めて重要な時期。
言い換えると、アルツハイマー病は高齢期ではなく、中年期にすでに始まっている病気であり、症状が表れるのが老年期、ということなのです。
リスクを高めるメタボと遺伝的要因
更年期を過ぎると高血圧や高血糖、中性脂肪の増加などメタボリックシンドローム、いわゆる「メタボ」のリスクも高くなります。
メタボは動脈硬化を引き起こし、脳血管に影響を与えるだけではなく、アルツハイマー病の発生にも密接に関係しています。
ホルモン補充療法と脳の関係
更年期の症状の緩和に有効とされているのが減少したエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)です。
ほてりや気分の浮き沈み、不眠などの更年期の症状の治療に広く使われていますが、脳の健康維持にも影響を与える影響が可能性があるとして注目されています。
閉経から5年以内に開始した女性では、アルツハイマー病の発症リスクが40〜80%低下したとする研究もあります。
一方で、閉経から10年以上経ってからHRTを開始すると、認知症リスクがむしろ上昇する可能性があると報告されています。
そもそも、HRTには乳がんや心筋梗塞などのリスクをわずかに高める可能性も指摘されています。
ですから、HRTを行うときには医師にしっかり相談した上で判断することが大事です。
今のところ、認知症の予防目的だけでHRTを導入することは推奨されていません。
社会的要因が女性の脳に影響?
そして、女性のアルツハイマー病リスクには教育や職業、性差別といった様々な社会的要因も複雑に
関係していることが判明しています。
特にジェンダーギャップ指数は146カ国中、118位と下位にいる日本では、この社会的要因が注目されるべきでしょう。
認知予備脳とは?
認知症の発症を遅らせたり、進行を穏やかにしたりする要因として「認知予備脳」という概念があります。
これは、脳がダメージを受けても、別の神経ネットワークで機能を補える能力のことです。
高い教育歴や知的刺激のある職業経験は、この認知予備脳を高めるとされており、認知症のリスクを下げる因子になります。
実際、管理職や専門職などで知的負荷が高い職種についていた人はそうでない人に比べて、認知機能低下のリスクが約2割、軽度インチ障害の発症リスクが約4割も低かったという研究結果もあります。
このように、アルツハイマー病において女性が高い発症リスクを持っていることは、生物学的要因と、社会的要因の両方が複雑に関係しています。
今後、女性を対象とした認知症対策の拡充や、性差に配慮した医療、予防政策の実施が求められていると思います。
超高齢化社会の日本において、女性のための認知症対策が必要だと思います。
コメント